問答で学ぶ
最低賃金
最低賃金を引き上げるべきか
「最低賃金を上げるべき?」——一見シンプルなこの問いが、なぜ専門家の間でも割れるのか。みどり先生とぐりっぴーの問答でほどいていきましょう。
みどり先生先生
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ぐりっぴー生徒
ぐりっぴー
先生、ニュースで「最低賃金を上げろ」ってよく聞くけど、そもそも最低賃金って何ですか?
みどり先生
いい質問ね、ぐりっぴー。最低賃金は「雇い主が労働者に払わなければならない、法律で決められた時給の下限」のこと。日本では国と地域ごとに決まっていて、これより低い賃金で人を雇うのは違法なの。
ぐりっぴー
じゃあ高くすればするほど、働く人はうれしいんじゃないの?なんで反対する人がいるの?
みどり先生
そこが面白いところ。最低賃金は「労働者を守る盾」になる一方で、上げ方しだいでは「雇用を減らす刃」にもなりうる、と心配する人がいるのよ。
ぐりっぴー
雇用が減る?どうして?
みどり先生
想像してみて。あなたが小さなパン屋さんの店長だとする。時給を法律で急に大きく上げられたら、人件費がぐっと重くなる。すると「アルバイトを1人減らそうか」「値上げしようか」と考えるかもしれない。これが反対派の言う「雇用が減るかも」という心配なの。
ぐりっぴー
なるほど…。じゃあ賛成派は何て言うの?
みどり先生
賛成派はこう言うの。「低すぎる賃金こそが問題だ」と。生活できないほど安い賃金では、働く人の暮らしも消費も上向かない。賃金が上がればその人たちがお金を使い、経済全体が回る——という考え方ね。
ぐりっぴー
先生、結局どっちが正しいの?経済学者なら答えを知ってるんでしょ?
みどり先生
ふふ、実はそこが一番大事なところ。経済学者の間でも、意見は割れているの。
ぐりっぴー
えっ、専門家でも分からないの!?
みどり先生
「分からない」というより「条件によって答えが変わる」が正確ね。有名な研究があってね——1990年代、カードとクルーガーという経済学者が、アメリカのニュージャージー州で最低賃金を上げたとき、隣の州と比べて雇用は減らなかった、と報告して大論争になったの。
ぐりっぴー
上げても雇用が減らなかったの?さっきのパン屋さんの話と違うじゃん。
みどり先生
そこがポイント。教科書的な「賃金を上げれば雇用は減る」という単純な話が、現実では必ずしも成り立たないことがある。理由のひとつが『モノプソニー(買い手独占)』という考え方なの。
ぐりっぴー
モノ…なに?
みどり先生
モノプソニー。難しい言葉だけど、要は「その地域で雇い主がほとんど一社しかいない」ような状況のこと。働き手は他に行き場がないから、雇い主は本来より安い賃金で雇える。そういう時は、最低賃金で底上げしても雇用は減らず、むしろ労働者の取り分が正されることがあるの。
ぐりっぴー
じゃあ、やっぱり上げた方がいいんだ!
みどり先生
早とちりは禁物よ、ぐりっぴー(笑)。逆に、一気に上げすぎたり、競争の激しい地域では、反対派の心配どおり雇用や労働時間が削られた、という研究もあるの。たとえばシアトルで急激に上げたときの研究には、悪影響を指摘したものもあった。つまり『上げ幅』と『その地域の事情』しだい、ということ。
ぐりっぴー
なんだか…スパッと白黒つかないんだね。
みどり先生
そう。そしてそれこそが、この問題を考える上で一番誠実な態度なの。立場の違う人たちが、それぞれ何を守ろうとしているか見てみましょう。低賃金で働く人は『尊厳のある暮らし』を、中小企業の経営者は『会社の存続』を、大企業はそれぞれの『競争力』を、労働組合は『交渉の土台』を守ろうとしている。誰も悪人ではないのよ。
ぐりっぴー
みんな、自分の大事なものを守ってるだけなんだ。
みどり先生
その通り。だから『上げる・上げない』の二択で殴り合うより、『誰に・どの地域で・どのくらいの速さで上げるのが、痛みが少なく効果が大きいか』を考える方が、ずっと建設的なの。
ぐりっぴー
先生、ぼく、これからニュースで「最低賃金」って聞いても、『どっちが正義か』じゃなくて『どんな条件の話なんだろう?』って考えられそう。
みどり先生
最高の学びね、ぐりっぴー。難しい問題に出会ったら、『一言の正解』を探すより『何と何がぶつかっているのか』を見つける。それが、ここ Midori Society で身につけてほしい力よ。
今日のまとめ
最低賃金は「上げる/上げない」の二択ではなく、上げ幅・地域の労働市場(モノプソニーの度合い)・速度しだいで効果が変わる。専門家の意見が割れるのは、立場ごとに守りたい価値(暮らし・雇用・会社の存続・交渉力)が異なるから。問うべきは『誰が正義か』ではなく『何と何がぶつかっているか』。